翻訳家志望

翻訳家になることを志望する人の中にはよく、「得意な英語を生かした仕事がしたい」と言う人がいます。

確かに翻訳の仕事には外国語能力が問われます。

高い外国語能力があるに超したことは有りません。

ですがこうした人が果たしてそのまま出版翻訳の仕事に就くことができるのでしょうか。

しかしそうした動機は、例えば旅行会社に就職したいと考えている人が、「自分は旅行が好きですから…」と言って旅行社の求人に応募してくるようなものです。

または「自分が料理が好きですから…」と言ってレストランの求人に応募するようなものでしょう。

考えてみればこれって何処かおかしくありませんか。

旅行をするのは客であって、旅行社で働く人たちではありません。

ガイドにしたって確かに旅行に同伴しますが、ガイド自身が旅行を楽しむのではありません。

レストランで料理を口にするのはレストランにやってくる客であって、レストランで働く人ではありません。

出版翻訳の場合もそうで、この場合の客に相当するのは出版された書籍の読者です。

読者は翻訳家の外国語能力を問いません。

読者が外国語で書かれた原作を目にする機会は殆ど無いでしょうから、読者が原作と翻訳家によって翻訳された日本文を比較してどうこう言うことは無いはずです。

出版翻訳の仕事において重要なのは、むしろ日本語力なのです。

しっかりした日本語の文章力や読解力が身に付いている人は、外国語を勉強してもその力が伸びます。

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翻訳はできない人

反対に日本語があやふやな人は、翻訳はできないと思っていいでしょう。

何故ならどんなに外国語が得意だといっても、母語以上に上達することはあり得ないからです。

考えてみてください。

皆さんがたとえ何ヶ国語に精通していようと、そのレベルは日本語を超えていることはないでしょう。

もっとも外国に生まれ育ったなどという背景を持ち、日本語は後から学んだと言う人なら話は別でしょうが。

翻訳者は外国語で書かれた作品を日本語に翻訳します。

出版されたその作品を読む読者は、翻訳者が翻訳した日本語を読むことになるわけです。

多くの読者は、決して外国語で書かれた作品を読みたいのではないでしょう。

読者は小説にせよ、伝記文学にせよ、はたまたノンフィクションにせよ、日本語で書かれたその作品が読みたくてその本を買っているのです。

もとは外国人によって外国語で書かれた作品ですが、それを一つの優れた作品として違和感なく日本の読者に読ませる力、もっと言えば翻訳されたものであることを意識させずに読者を引きこむ語り方です。

翻訳家にはそうした日本語力が求められるのです。