出版翻訳の仕事
少しなりとも翻訳をしたことのある人ならお分かりでしょうが、翻訳はかなり難しい作業だと言えます。
ましてはプロが行なう翻訳のレベルは相当な難易度です。
ここでは翻訳の仕事にもう少し注目して見てみることにしましょう。
幾ら翻訳者に外国語の相当な素養が備わっていても、すぐにすらすらと翻訳ができる、といったことはありません。
翻訳の仕事には、多分にリサーチや研究が含まれます。
例えば一冊の外国語の本を正確に日本語に翻訳するには、図書館やインターネットを利用して資料を調べるのはもとより、ときには著者に直接問い合わせて、翻訳の過程で生じた不明点をクリアしていくことも必要です。
翻訳家によっては、後輩の若手翻訳家に協力してもらったり、或いは翻訳学校に通う学生に下訳を依頼するなどして、時には一冊の本の翻訳に複数の人間が携わることもあります。
ところで海外の出版物を日本で翻訳、出版するに当たっては、翻訳出版権や採算の関係から、ある本を日本で翻訳できるのは、原則として一度きりです。
例えば皆さんがある海外の本を翻訳して、その本が出版されれば、その同じ本を別の人が翻訳して再び出版される、といったことはまずありません。
つまり極端な言い方をすれば「末代までの誉れ」になるも或いは「末代までの恥」になるも、全てその一回きりの翻訳にかかっているのです。
その大切な一回で翻訳家が名訳とも言える見事な翻訳をしても、逆に解釈を誤って間違った翻訳をしても、いずれにしてもずっと残ることになります。
また万が一訳し漏れがあればその内容が欠けたまま読者に伝わりますし、また翻訳者の日本語の文章が稚拙であれば、本来の内容や原作の味わいが日本の読者には伝わらないことになります。
従って翻訳者は自分が訳した日本語に対して全責任を負うことになります。
翻訳家の役割と責任は非常に重大だと言えます。
ところでかくも重責を担う翻訳家ですが、その権利も著作権法という法律で守られています。
翻訳の著作権
よく音楽や出版にこの著作権のことについて言われますが、翻訳者の場合も同じです。
海外の書籍を日本語に翻訳して出版する場合、原作の著作権は勿論原作者にありますが、翻訳された日本語についての著作権は翻訳家に帰属します。
従って翻訳家が日本語に訳した文章を、後になって翻訳家に無断でそれを変更することは、本来は許されていません。
しかし現実には、やむを得ず編集者が手を加えることがあります。
それは例えば翻訳家から上がってくる翻訳の原稿の質が低く、そのままではとても出版できないと出版社の編集者が判断した場合等がそうしたケースに該当します。
現実には残念ではありますが、こうしたケースは少なくありません。
自身が翻訳した文章に対して、翻訳者は責任を持たなければなりません。
書籍として出版するのであれば、当然ながら高い翻訳能力、文章力が求められます。
そうした出版の基準を満たす翻訳力に欠け、また自身の訳文に対する責任が果たせないということは、翻訳家としての義務を放棄することであり、同時に翻訳家自身の権利を放棄するにも等しいことだと心得ておいたほうがいいでしょう。